ふと立ちて 足もとにある 今の息  A quiet breath returns you to where you stand.

現在地の息

ふと、足もとに息が戻る瞬間がある。 それまで、どこか宙に浮いたような感覚で、 時間の層がいくつも重なり、 自分がどの層に立っているのか分からなくなることがある。

深層の臨床に携わる者は、 この「浮足立ち」を経験しない時期はない。 むしろ、深層に触れるほど、 時間は単線ではなくなり、 制度も、出来事も、他者の心理も、 複数の層で同時に動き始める。

そのとき、 自分の現在地が曖昧になる。

しかし、 ある瞬間、 静かに息が戻る。

それは、 外側の出来事が整理されたからではなく、 内側の構造がひとつ「定まった」からだ。

深層の臨床では、 この“現在地の息”をとても大切にする。

なぜなら、 深層を扱う者は、 常に複数の層を同時に見ているからだ。

他者の解離の層。 制度の不通の層。 自分自身の抽象構造の層。 時間の多層性。 そして、 言語化の困難と、 それでも言語化しようとする力。

これらが一度に動くとき、 人は「浮く」。

だが、 その浮遊は不安ではなく、 深層へ降りる前の“揺れ”であることが多い。

揺れののち、 足もとに息が戻る。

その瞬間、 書くことが可能になる。

深層の臨床は、 「書こうとして書く」のではなく、 “書ける状態になったときに書かれる” ものだからだ。

今日、 ふと立ち止まり、 足もとに息が戻った。

その静かな現在地から、 深層の臨床のシリーズは始まる。

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