筆を口にくわえて書画を描いた大石順教尼(1888~1968)の作品や遺品を展示した記念館が、和歌山県九度山に開館したそうである。
口筆で書画を描くようになったのは、17歳の時、養父による一家6人殺傷事件にまきこまれ、両腕を失ったためである。この時、舞踊家としての輝かしい未来への夢も打ち砕かれている。
両腕を失うことは、身体的な痛み以上に心の痛みを伴っただろう。
事件の衝撃や理不尽さを17歳の少女が受け止めることは容易ではなかっただろう。
遺された書画も、PTSDの克服について我々にさまざまな示唆を与えてくれると思われるが、
順教尼の一番の功績は、【身体障碍者の母】と呼ばれていることにあると私は思う。
事件というものがPTSDという苦しみや孤独を生むことを身をもって知ったことが、
彼女を僧籍へと向かわせ、障碍をもつひとたちへのこころの支援をさせたのではないかと思うからである。
残念ながらPTSDへの無理解や無支援は存在する。
しかし、順教尼の遭遇された事件や生涯から学ぶ人が増えたらなあと夢想している。